盆踊りサウンドスケープ集

- 列島3000キロ・ライブ音源でめぐる全国盆踊り -

盆踊りの時間は、夜。
本来月明かり程度の明るさで踊った盆踊りでは、大切なのは「目」よりもむしろ「耳」です。
目を楽しませる美しい衣装よりも、のびやかな歌声や囃子のリズムのほうが、踊りの場の華やかさ・楽しさの演出の上ではるかに重要な役割を持っていたことでしょう。

こうした歌や囃子は、人工的なメディアを介さず、まさに「耳を頼りに」それぞれの土地で何百年も受け継がれ、磨かれてきたものなのです。「ムラの記憶」「土地の精神の結晶」といってもいいかもしれません。

このコーナーでは、北は秋田から南は沖縄まで、私たちが訪ね歩いた盆踊りの中から、特徴的な音風景=「サウンドスケープ」を紹介してみました。

歌声や囃子の音はもちろんですが、耳を澄ますと街は街なりの、山奥は山奥なりの土地の雰囲気が聞こえてくると思います。日本の盆踊りが豊かで多彩な音文化を継承していることに、きっと驚かれることでしょう。

トラック1 西馬音内盆踊りより「音頭」「願化」

<データ>

西馬音内盆踊り

場    所 : 秋田県羽後町西馬音内
録    音 : 吉田
録音時間 : 4分00秒

西馬音内盆踊り

ライブ音源集の最初は、東北地方を代表する有名な「西馬音内盆踊り」の音楽をご紹介します。

最初の曲は「音頭」。早いリズムの鉦を中心としたにぎやかな囃子が、東北の夏祭りを彷彿とさせて印象的です。
歌はいわゆる「秋田音頭」の一種で、8・8・9の独特の詞型。秋田弁丸出しで歌っています。歌詞の内容は、世俗的・艶笑的でひなびたものですが、優美な踊り子の踊りとの対照によって独特の効果を演出しています。「タカサッサー」「ア、ドッコイナ」の囃子詞も勇壮です。

後半の「願化」は、一転して憂いを含んだ優雅な曲調となります。
囃子も篠笛が主役となり、みやびた感じに聞こえます。歌詞は7775の近世小唄調。囃子詞は「ソリャ キッタカサッサー」「ノリツケ ハダコデ シャッキドセ」(洗って糊付けてシャキッとした浴衣で踊れ!)と唄っています。

短い東北の夏の3日間、小さな西馬音内の町はたくさんの観客であふれかえります。会場の本町通りでは、端縫い衣装と彦三頭巾の踊り子たちが、この2つの曲を交互に繰り返し踊ります。

トラック2 佃島盆踊り

<データ>

佃島盆踊り

場   所 : 東京都中央区佃島1丁目
録   音 : 石光
録音時間 : 2分17秒

東京の中央部にただ一つ残された、江戸時代以来の伝統を有する盆踊りである「佃島盆踊り」。

毎年夏の初めの七月盆に、隅田川に面した佃島の一角で見ることができます。隅田川の水死者供養の「念仏踊り」という位置づけを、今もしっかり伝えています。

佃島盆踊りで歌われる曲は1曲のみ。
ベランメェ調の江戸弁が見事です。聞きどころは、音程を気にしない伸びやかで自由な節回しです。日本民謡の特徴が余すところなく表現されています。

歌詞は77調の口説き形式。
歌詞の内容は仏教色も残した古風なものです。音頭取りが同じ歌詞を2度繰り返し、その間に踊り子たちの囃子詞「ア、コラショイ」および「コラ ヤートセ ヨーイヤナ、コラショイ」が入ります。
伴奏楽器も太鼓のみというシンプルさで、音頭取り自らがバチを持って叩き、名人芸的な独特の味わいがあります。

*トラック8「伏拝盆踊り」の「那須与一」、トラック12「白石盆踊り」の口説きと聞き比べて下さい。囃子詞、伴奏楽器など曲の形式が相似していることがよくわかります。

トラック3 水窪(西浦地区新細)の盆踊りより「セショウ」

<データ>

水窪町西浦の念仏踊り

場   所 : 静岡県水窪町西浦地区新細
阿弥陀堂
録   音 : 柳田
録音時間 : 2分25秒

冬の「西浦田楽」で有名な静岡県水窪町西浦地区はまた、夏の伝統的な念仏踊りを残すことでも知られています。

音源集に収録したのは、念仏踊りの合間に踊られる盆踊りのうち「セショウ」の歌声です。南信・北遠地域には、「セショウ」「ノーサ」の2つの盆踊り歌が特徴的な分布を見せていることで知られています。

録音では、「おどらまいかよ~、おどらせまいか」と唄う音頭の歌や、踊り手との掛け合いの様子、特徴的な3拍の手拍子など、ほのぼのとした山里の盆踊りの音風景を聞きとることができます。

収録当日、東海・関東地方は記録的な豪雨となりました。山奥の西浦でも小雨が煙り、念仏踊りは阿弥陀堂内での開催、盆踊りの実施は困難と思われました。夜半、奇跡的に雨があがり、堂外の広場で念願の「セショウ」を取材することができました。音頭は「セショウ」の名人と言われる人に頼んで歌ってもらったものです。雨上がりの高原の夜空に吸い込まれるような歌声は、心にしみる感動的なものでした。

トラック4 新野盆踊りより「おさま甚句」「十六」「能登(踊り神送り)」

<データ>

新野盆踊り

場   所 : 長野県阿南町新野
録   音 : 石光
録音時間 : 5分28秒

名曲揃いの新野盆踊り歌7曲の中から、3曲を紹介しました。

長野県南部、標高1000mの新野高原に伝わる新野盆踊りは、古い形態を残す盆踊りとして大変有名です。特に、楽器・囃子を一切使わないアカペラの音頭は、古い盆踊りの姿を残すものとして大変貴重なものです。

そのほか、音頭の歌い出しにすぐに複数の音頭取りが反応して歌い出す点、音頭と踊り手の間で「掛け合い」のやりとりが見られる点などの特徴を、はっきりと聞き取ることができます。これらは、同じ唄を盆踊り参加者全員が知っていなければできないスタイルで、昔ながらのコミュニティの盆踊りのあり方をよく伝えています。

最初の「おさま甚句」は、扇を使う踊りです。
「おさま甚句はどこからはよた 三州振草おさま下田から」という代表的歌詞があり、新野盆踊りの伝承起源を伝えています。録音では「三州振草のみそ田楽は 親もさせるが子もさせる」などの歌詞が聞こえます。

次の「十六」は、陽旋法ののびやかな唄で、扇は使わず手拍子が入ります。声域・音程もかなり自由に歌っている様子がうかがわれます。「おどらまいかよ、おどらせまいか」の普遍的歌詞が聞こえます。

最後は、新野盆踊りのクライマックス「能登」。
16日の明け方、盆踊りの最後に1度だけ踊られるという、宗教儀礼的な意味合いをもつ踊りです。「能登へ能登へと草木もなびくよ、能登は草木のほんもとだ」という歌詞が名称の由来で、踊りの最後を締めるにふさわしい元気の良いかけ声や手拍子が印象的です。録音では「盆よ盆よと春からまちて 盆が過ぎたらなにょ待ちる」などと歌っています。

曲の途中から大きくなってくる鉦の音に注目してください。
これは、「踊り神送り」という新野盆踊り特有の行事のサウンドスケープです。鉦を叩き、「ダンボ ダンボ」「ナンマイダンボ」と念仏を唱え、切子灯籠を従えた集団が、能登を踊る輪踊りの中に突入し、これを切り崩して進んでいくという圧巻のシーンです。若者達の悲鳴や歓声などのなまなましい表情が伝わってきます。

行列が通り過ぎた場所は「秋」になり、以後来年まで踊りを踊ることはできなくなります(実際は24日の裏盆にもう一度踊られている)。

トラック5 郡上踊りより「春駒」「げんげんばらばら」

<データ>

郡上おどり

場   所 : 岐阜県八幡町新町通り
録   音 : 柳田
録音時間 : 3分01秒

日本を代表する盆踊りの一つ「郡上踊り」から、人気の2曲です。

岐阜県郡上八幡では、毎年夏に1ヶ月以上にわたって盆踊りが繰り広げられます。この年は8月の末に行きました。徹夜踊りの熱狂も過ぎて、落ち着いた踊りが楽しめるシーズンです。通り雨もあり、しっとりとした雰囲気もまたいい感じでした。

はじめは「春駒」。全国的にも有名な曲です。
「あ、七両三分のはるこまはるこま」という音頭の歌い出しが印象的です。踊りは飛んだり跳ねたりのにぎやかなものです。唄は小唄形式で、囃子の三味線がなかなか複雑なリズムを構成しています。曲の間の合いの手は入れるタイミングがなかなか難しいのですが、よく聞くと面白いものです。
2曲目は「げんげんばらばら」。これも郡上踊りを代表する曲です。
手鞠唄を盆踊り歌に転用したとされるもので、袖を大きく使って鞠をつく振りが印象的な踊りです。唄は口説形式。歌詞は郡上一揆に取材した「宝暦義民一揆」や、数種類のユニークな数え歌がよく歌われます。囃子詞(後囃子)は「ア、イヤマカサッサイ、ヤットコセー」。

トラック6 白鳥踊りより「シッチョイ」「かわさき」

<データ>

白鳥踊り

場  所 : 岐阜県白鳥町
録  音 : 石光
録音時間 : 3分05秒

清流長良川の源流に近い岐阜県白鳥町の盆踊り「白鳥踊り」は、郡上八幡と同じ白山民謡文化圏にあり、やはり夏の1ヶ月近くを踊り明かす踊り好きの土地柄です。

郡上踊りに比べてテンポの早い曲が多く、飛騨地方とも共通の踊りを伝えるなどの特徴も見られます。音源には代表的な口説きの「シッチョイ」と、小唄形式の「かわさき」を収録しました。

1曲目「シッチョイ」は長い物語り口説きで唄われることの多い曲ですが、調子のよい数え歌形式の唄も歌われます。「ア、シッチョイシッチョイ」の威勢のいい囃子詞も特徴です。音源では、「一はよ~、・・・・○○の○○寺様よ」と、白鳥周辺のお寺を題材にした数え歌が歌われています。カラ、コロという下駄の音にも注目して下さい。これも盆踊りの独特のサウンドスケープの一つです。

2曲目「かわさき」は、郡上八幡のものと共通ですが、やや軽快でリズミカルな感じがします。

トラック7 おわら風の盆より「おわら節」

<データ>

おわら風の盆

場   所 : 富山県八尾市街
録   音 : 石光
録音時間 : 2分04秒

近年大人気のご存じ「おわら風の盆」です。

哀愁を帯びた「胡弓」の音色が、風多き山里越中八尾の風土をじょうじょうと歌い上げます。白足袋に赤い鼻緒の草履、目深に被る鳥追い笠が艶やかな「おわら風の盆」の踊り子の姿が瞼に浮かんできます。

唄は前囃子「キタサノサー ドッコイサノサ」に続いて、7775形式の近世小唄調の歌詞が挿入され、後囃子「唄われよ、わしゃ囃す」という形式です。

トラック8 伏拝盆踊りより「那須与一口説き」「伊勢音頭」

<データ>

伏拝盆踊り

場   所 : 和歌山県本宮町伏拝公民館広場
録   音 : 石光
録音時間 : 4分00秒

熊野本宮に近い伏拝は、江戸時代から伝わる古い盆踊りを伝える集落で、その伝承の曲は現存で二十曲以上、昔はもっと多かったといわれています。江戸中期の代表的盆踊り歌「五尺いよこの」のほか、土地柄を反映した伊勢音頭2曲と「おかげ詣り」などの曲が注目されます。

収録1曲目は関西地方で好まれる「那須与一口説」。
「四国讃岐の屋島の浦よ」「源氏方には白旗挙げて」という歌詞、「アラ ヤートヤー、ヨーイヤナ」の囃子詞などが明瞭に聞き取れます。トラック2「佃島盆踊り」、トラック12「白石踊り口説き」と囃子詞を聞き比べてみて下さい。

「お伊勢を~」と始まる2曲目は、お伊勢音頭です。
踊り子は四角の隊形になるのが大きな特徴です。手には日の丸の扇を持って踊ります。曲調も関西地方に入ったためか優雅な感じがします。囃子詞は「ヨイ、ヨイ」「ヨーイセ、コーラセ」のほか、伊勢音頭に特有の「ヤートセ、ヨーイヤナ」などが聞き取れます。かけ声風の囃子詞を聞いていると、伊勢音頭の元唄が伊勢遷宮にかかわる木遣り唄であったとの説が想起されます。

トラック9 十津川盆踊り(西川地区)より「大踊り」

<データ>

十津川盆踊り(大踊り)

場   所 : 奈良県十津川町 西川中学校体育館
録   音 : 石光
録音時間 : 2分50秒

奈良県の山奥十津川町の小原、武蔵、西川の各地区には、中世の「風流踊り」の系譜をひく「大踊り」といわれる風雅な盆踊りが伝承されています。

収録した音源は西川地区のお踊りです。
中学校の体育館の中で踊られたものですが、古く寺の堂内で踊られたという言い伝えを彷彿とするシチュエーションです。カラフルな房をつけたバチ、腰の前につけた太鼓などが風流の様式を伝えています。

 

トラック10 河内音頭より「流し節正調河内音頭」

<データ>

流し節正調河内音頭

場   所 : 大阪府八尾市常光寺境内
録   音 : 石光

録音時間 : 2分24秒

 

トラック11 阿波踊りより「鳴り物」「佐川連」「レレレの連」、鳴り物のパフォーマンス

<データ>

阿波踊り

場   所 : 徳島県徳島市街
録   音 : 石光
録音時間 : 3分49秒

さいしょは、演舞場のサウンドスケープ。
ご存じ阿波踊りの雰囲気を伝える「鳴り物」です。録音では鉦の音が目立っていますが、背景に調子のよい笛の旋律も聞こえてきます。

次の音景は、通りで出会った「連」の音楽です。
阿波踊りの特徴は、数百といわれる踊りグループ「連」が、それぞれ独自の囃子音楽を持っていることです。つづいての音源では、企業連の代表として「佐川連」、一般の連からは徳島大生中心の「レレレの連」の2つを取り上げてみました。

企業名、商品名を連呼して威勢のいい「佐川連」、「レレレのおじさん」の風体をしてまったりと踊る不思議な踊り集団「レレレの連」。まったく雰囲気の異なる2つの囃子音楽ですが、どちらもやはり阿波踊りです。阿波踊りは、こうした様々な音楽を包み込む多様で広大な音の地平を形成していることが理解できます。

最後は、時折街頭で催される「鳴り物」主役のパフォーマンス。猛烈な鉦・太鼓の連打と、飛び散る汗が、囃し手と観客をともに興奮の渦に巻き込んでいきます。

盆の3日間、徳島市街は阿波踊りのリズムに隅々まで占拠されます。

 

トラック12 白石踊りの口説き

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白石踊り

場   所 : 岡山県笠岡市 白石島公民館広場
録   音 : 石光
録音時間 : 2分32秒

 

瀬戸内海の小島「白石島」に、独特のバラエティ豊かな踊りを伝える「白石踊り」があります。
10種類にのぼる独特の扮装をした踊りを、ただ1種類の口説きの曲に乗せて踊ります。

音源は、「一重積んでは 父様のため」と聞こえますので、いわゆる「賽の河原」の口説きと思われます。幼くて死んだ子ども達の、賽の河原の石積みの情景を歌ったもので、鎮魂曲としての性格を持ち、全国的に見られるものです。囃子詞は「ソラ ヨーエ、ヨーエ、ヨーイヤナ」。

トラック2「佃島盆踊り」、トラック8「伏拝盆踊り」の那須与一口説きと聞き比べてみて下さい。特に佃島は白石と同じく1種類の曲だけで、踊りの振りも似ており、その共通性が以前から指摘されています。白石踊りの方は、1タームの踊り・節回しともに少し長くなっているようです。

トラック13 津和野踊り

<データ>

津和野踊り

場   所 : 島根県津和野町殿町
録   音 : 石光
録音時間 : 3分07秒

雅やかで優しい囃子が聞こえてきます。

中国地方の山間の観光地津和野に伝わる盆踊り「津和野踊り」のサウンドスケープです。音景の中心はもちろんこの囃子で、写真右上隅にある囃子櫓の中で演奏しています。女性だけの珍しい構成のためか、三味線の音も柔らかです。

歌詞の構成も注目です。
通常盆踊りによく歌われる近世小唄調は77 75の26文字が一般型ですが、ここでは77 77 75と、中間に2句多い40字の形式です。歌詞の例は「松の葉越しに出る月見れば 見えつ隠れつ人目をしのぶ(ササヤレコナーサ)、空にも恋路があるものか(ヨオイヤアナア)」と、近世小唄調に比べるといっそう優雅なものとなります。歌詞内容にも、中世の閑吟集以来の古風なものが認められます。

曲(踊り)の1タームはたいへん長く、テンポ・動作も古風なゆるやかさを守って踊られていきます。白と黒のシンプルな踊り衣装がバックのナマコ壁とも調和して、「山陰の小京都」の名にふさわしい雰囲気を醸し出しています。

トラック14 竹富島のアンガマ

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竹富島のアンガマ

場   所 : 沖縄県石垣市竹富島市街
録   音 : 石光
録音時間 : 3分18秒

 

音源集最後の2トラックは、日本列島の南の沖縄地方の盆踊り歌から。

沖縄本島のさらに南、石垣島に近い離島「竹富島」の盆行事アンガマの音楽です。沖縄など南島地方は、いまも伝統的な旧暦盆がを守られていることで有名です。祖霊信仰の色濃い盆行事アンガマも、旧暦7月15日前後に行われます。

音源は、これまでの内地のものとは曲調ががらっと変わります。南東風音階で、「シマウタ」の文化圏に入ったことがはっきりとわかります。にぎやかな囃子のサンシンの音も沖縄らしさを演出しています。
聞きどころの一つは、「ヒヤルガ・・・」という合いの手の囃子詞。ウラ声で歌われている点に注意して下さい。ウラ声は、この世のものではない精霊の存在を示すために使われるウタの技法です。現在も奄美大島など南島中心にある程度見られますが、いまでは数少なくなった貴重な民俗です。

トラック15 世富慶エイサーより「あやぐ節」など

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世富慶エイサー

場   所 : 沖縄県名護市世富慶
録   音 : 石光
録音時間 : 5分26秒

 

世富慶エイサーも、他の沖縄のエイサーと同じく旧暦の送り盆(ウークイ)を済ませた15日に踊られます。
世富慶は、特に美しい手踊りと、古風な様式や唄を残すことで有名です。取材時は美しい満月の下、数カ所の拝ん所(ウガンジョ)や辻で踊られるエイサーを満喫することができました。

世富慶には沖縄民謡の盆歌が20曲ほどあり、短時間づつ連続して次々と歌っていきます。サンシンと音頭出しの担当はやや年輩の人ですが、歌・踊り・囃子詞・太鼓の主役は10~20代の若い男女です。子どもたちも小さいうちから混じって、エイサーのリズムを体で覚えていきます。高齢化が進む日本の伝承系盆踊りの中で、ここ世富慶ではかつての若者主役の盆踊りの音風景を楽しむことができます。若者たちの「イヤササ」「ハイヤ」の元気のよい囃子詞が、実に素敵です。

最後の曲は「あやぐ節」(と思われるもの)。
20曲あまり歌われる盆歌のいつも最後に歌われるものです。指笛も飛び出して、次第に盛り上がっていきます。最後は踊りながら順次退場していく、古い芸能のいわゆる「出端(では)」の演出が伝承されています。「エイヤラー、スーリ」「スイ!、スイ!」といった調子のよい囃子詞が印象的です。

田峰塩津念仏踊り

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田峯念仏踊り

場   所 : 愛知県北設楽郡設楽町
録   音 : 柳田
録音時間 : 3分30秒

 

愛知県の北部、奥三河の北設楽町田峯(だみね)は民俗芸能の宝庫です。有名な田峯観音の盆踊りのほか、一帯のいくつかの集落には古風な盆踊り・念仏踊りが継承されています。山あいの美しい小集落塩津地区は、残念ながらすでに手踊りは途絶えてしまいましたが、そのかわり素朴で味わい深い盆の念仏踊りを残してくれています。日が落ち、こわいほどの闇につつまれた中。篠笛の音を合図に、手鉦と締太鼓の10名ほどの行列が天神様の境内へと進みます。録音はここから。「四季歌」などの貴重な念仏踊り系の歌が唄われます。締太鼓を手にした4人の若者が輪になり、くるくると廻りつつ、跳躍・屈伸を伴う踊りを踊ります。締太鼓は太く短いバチで強く打ちならされ、汗が激しく飛び散ります。踊りは盆の精霊のためのものですが、ここで見られる力強い踊りは、祖霊を慰めるためというよりも、悪霊を払い鎮めるための踊り、という雰囲気がぴったりです。踊り場は「移動型」で、新盆の家や集落の辻でも踊られます。最後の踊りが終わるとすぐに村境への「送り」となり、行列は夜の闇へと足早に消えていきました。
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