はじめに

盆踊りは500年に及ぶ歴史をもち、現在でも多くの人が楽しむ日本の代表的な民俗芸能です。しかし、その歴史にはまだ多くの謎があります。
盆踊りは、われわれの先祖たちが、文字に頼らず、目、耳、口、身振りなど「カラダ」で記憶し、伝えてきたものです。この点で「昔話」と似たところがあります。また盆踊りは基本的に民衆のものであったため、支配層やエリート層による記録も断片的なものです。
このため、文字による記録からの復元は限られています。
一方、各地に伝わる盆踊りには、いまも古い時代の姿を残しているものがあり、昔の様子を想像するチャンスを与えてくれます。しかし、そうした古い踊りも数は多くなく、つねに縮小・消滅・変質の危機にさらされているのです。
このように、盆踊りの歴史を探るための手がかりは決して多くありません。しかしながら、これは盆踊りの歴史を推理して楽しむ余地が多く残されているということでもあります。数少ない文献資料や、各地に残る古い事例の研究などを通じて、盆踊りの歴史を推理してみましょう。

盆踊り通史

盆踊りの姿・状況や変化のタイミングが全国共通であったとイメージするのは間違いです。盆踊りに限らず伝統芸能は、地方によって起源や変化のスピード、内容がそれぞれ異なるためです。伝統芸能の歴史を描く際の難しいところです。
しかしながら、各時代に共通の宗教・芸能面の特徴を抽出し、盆踊りの変化のプロセスを追いかけてみることは、ある程度まで可能です。ここでは、各時代の特徴的な盆踊りの姿とその変化を、時間を追って大づかみにまとめてみました。

 

0.盂蘭盆の歴史

盂蘭盆経について お盆の元になっている盂蘭盆経は、インド由来でなく、中国で撰述されたお経であると考えられています。元来仏教は、輪廻転生とそれからの解脱がテーマであり、先祖という要...

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1.平安後期~鎌倉時代 念仏芸能と踊り念仏の誕生

概観 鎌倉後期、新仏教の中から、盆踊りの1つのルーツでないか、と考えられる、一遍上人の踊り念仏がおこります。その前、平安後期には、盆踊りの素地になる各種なもの、風流(ふりゅう)、...

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2.室町前中期 盆の風流踊りの誕生

概観 南北朝統一から応仁の乱、明応の政変と時代が動く中、仏教の普及である踊り念仏が、庶民の民間信仰に娯楽を伴う念仏長田となり、盂蘭盆会と結びつきます。そして、人の意表をついた派手...

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3.室町後期~戦国~安土桃山 風流踊りの興隆と地方拡大

概観 16世紀は、盆踊りを含めて日本中が踊りまくった「踊りの時代」でした。この時期、盆踊りにかかわる主たる舞台は、京の都、そしてそから地方に移ります。京都では、経済力...

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4.江戸前期 盆踊りの確立

概観 約1世紀つづいた華やかな「踊りの時代」が転換し、天下統一長い安定の江戸時代となります。庶民の文化も芽生え、盆踊りも現代に続く形が整ってきます。 時代 江戸体制の確立 ...

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5.江戸中後期 盆踊りの定着と成熟

概観 経済社会の安定、成長により文化が発展。一定の統制の下、盆踊りが成熟していきます。現在踊られている盆踊りの初期の文献記録も登場し、現在盆踊りとの直接的関係が明確、現在と続く伝...

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6.明治 盆踊りの転機

概観 江戸から明治へ 明治維新後の西欧化の方針から、旧習は悪とみられ、排除に動く時代。さらに急速な「近代化」の中で、盆踊りも大きく影響を受け、そして変容しました。元々、大都市(...

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7.大正時代~昭和初期 盆踊りの再興

概観 大正の日本文化復興 大正時代は、日本の伝統文化再発見の時期。新民謡の作曲、民謡や民俗芸能の価値発見がなされます。他分野の日本の伝統が見直される流れと絡みながら、あらたな動...

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8.戦争前後 戦時対応と中断及び再開

概観 日中戦争開始の昭和12年(1937年)ごろから、戦時歌謡・軍国歌謡等の比率が高くなり、盆踊りもその影響をうけます。国威発揚のための音頭が執り行われ、また、慰問なども行われま...

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9.昭和中後期 音頭と民謡の全国拡大

概観 戦後の困窮期から再独立を経て平和が訪れた。日本は急速な復興と高度経済成長期に入る。この間、都市化の急速な進展とともに、これまで盆踊りの支え手であった共同体が消滅の危機を迎え...

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10.平成令和 停滞から新基軸の誕生

概観 昭和後期と同様、関東圏を中心に盆踊りは退屈な子供とお年寄りの遊戯というステレオタイプ的なイメージが継続する。一方で、阿波踊り、エイサー、河内音頭など地域初全国区の踊りが若者...

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