神奈川県下の伝承系盆踊りでは、ほとんどといっていいほどこの「ささら」という楽器を用いています。他県の盆踊りにくらべて、大きな特徴といえるでしょう。

ここでは、この「ささら」という現代日本人には珍しい楽器について、ご紹介します。



ささらとは


写真が、「ささら」です。「ささら」という楽器には「びんざさら」と「すりざさら」という2つの種類がありますが、これは「びんざさら」の方です。竹のプレートを束ねた一種の打楽器で、両端をもって振ると「シャンシャン」あるいは「ジャッジャッ」という音がします。音量はあまり大きくありませんが、踊り子や囃し方が手に持ってリズムを取るのに使われます。

びんざさら

「びんざさら」はたいへん素朴な民俗楽器ですが、その歴史は非常に古いものです。平安時代の「年中行事絵巻」の中にすでにその演奏の様子が描かれており、源流は大陸にあるともいわれています。中世に大流行した「田楽」などの芸能の中で盛んに使われました。

「びんざさら」の材質は、論点の一つです。
写真のものは竹製で、かつては古い農家の煤竹(すすたけ)などが、よい音がするといって好まれました。越中五箇山では、「こきりこ」の別名を持ち、ヒノキ材でできたささらが伝わっています。また東京都北区・王子田楽のものは、桜材と竹材が交互に使われています。びんざさらの漢字表記「編木」や絵画史料からすると、竹材のものが古い形とはいえないようです。

すりざさら(簓)


写真が「すりざさら」(漢字表記は「簓」)です。刻みのついた竹の棒を、竹ヒゴを束ねたようなもので擦ると、「ザラザラ」といった音が出ます。音量は「びんざさら」同様小さいものですが、やはりリズム楽器の一種です。

「すりざさら」も歴史は古く、中世の田楽躍りなどの際に盛んに使われました。南北朝時代の絵画史料「法然上人絵伝」には、田植えに伴う田楽で「すりざさら」を活き活きと演奏する人物の様子が描かれています。特に、中世の代表的な語り物芸「説経節」の上演の際に使われた楽器として知られています。
五来重「踊り念仏」(平凡社)によると、「一遍聖絵」の中の有名な小田切の里での始めての踊り念仏のシーンの絵で、参加者の中にこの「すりざさら」を奏している人物が描かれているとのことです。注目すべき情報です。

「ささら」を使った民俗芸能

「ささら」は中世に大ブレイクした人気楽器でしたが、近世以降は太鼓や笛のようにポピュラーな楽器にはなれませんでした。それでも、各地の神楽や田楽などの民俗芸能の中に伝承されている例をしばしば見ることができます。また近代以降も、「びんざさら」は大道芸・宴会芸の人気アイテム「南京玉すだれ」に形をかえて、民衆文化の中に受け継がれています。実はなかなか生命力の強い楽器なのかもしれません。

「すりざさら」を使った民俗芸能としては、関東地方では三浦半島の少女風流「ちゃっきらこ」が有名です。盆踊りでは、静岡県安倍川源流の「有東木盆踊り」で使われています。

一方「びんざさら」は、有名な静岡県水窪の「西浦田楽」や東京都の「王子田楽」などで重要な役割を果たしています。盆踊りで使われるケースもありますが、数は多いとはいえないようです。三重県志摩立神地区のかんこ踊り、千葉県白間津大祭のささら踊り、ほか盆の獅子舞系の芸能など、分布は全国に見られます。

「びんざさら」を使うもっとも有名な民俗芸能として、神奈川県を中心に濃密に分布する伝承系の盆踊り群-通称『ささら踊り』を挙げることができます。藤沢の代表的な伝承系盆踊りである「遠藤・葛原の盆踊り」も、このグループに属しています

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