戦後になってから、日本の盆踊りは時季も日程も季節感もどんどん多様化してきています。
しかし、やっぱり盆踊りは「お盆」の行事です。お盆の時季が選ばれた理由があるはずです。ここでは、一番大きな時間的枠組みである「時季・季節」の整理を通じて、「なぜお盆に踊るのか」という問題に迫ってみました。

◆盆踊り=「お盆」=八月が中心

盆踊りはお盆の行事ですから、盆踊りの時期・季節もお盆の時季・季節に従うというのが常識的な判断です。現代の日本では「お盆=8月」というイメージが広く定着していますが、じっさい多くの盆踊りは8月に開催されています。これだけを見ると、ことさら取り上げるほどの話ではないようにも思われます。が、問題はそれほど単純ではありません。

◆3つの「お盆」問題

実は、日本の「お盆」の時季は一つだけだけではありません。現在日本列島には、明治期の新旧暦の切り替えの影響で3つのお盆の時期が見られるのです。

>現在一般的に見られる新暦8月15日ころの「八月盆(月遅れ盆とも言う)」以外にも、新暦7月15日前後の「七月盆」、そして旧暦の7月15日前後の「旧暦盆」などの時季があります※<<

現在も、全国的に有名な盆踊りで、七月盆や旧暦盆に開催されるものが見られます。お盆と盆踊りの時季は、意外に多様なのです。

 佃島盆踊りは七月盆
  <新暦7月15日ころ開催>

※なぜ3つに分かれたかは、

をご参照ください。

◆夏のイベントとしての盆踊り

近年は、しだいに「お盆」を重視する意識が薄れ、また夏の休暇取得時期の分散化も進んで、盆踊りの時期はさらなる「多様化」の時代を迎えています。
戦後に始まった新しい盆踊りなどでは、7月~8月の夏休み中の適当な時期に、土日のカレンダーも考慮し、地域の人々の都合を優先した日取りをとることが多く、盆踊りは夏のイベントとしての性格が強まっています。

いっぽう、伝承系の古い盆踊りにも影響が生じています。過疎化の進む地方の山村などでは、盆踊りや様々な盆行事をとりおこなうためには、なるべく多くの地元出身者に帰省してもらう必要があります。このため、みんなが帰省しやすい時期として、結局古い習慣を捨てて8月15日前後の時期を選ぶ地域も増えました。

「お盆」という時期的特性は、盆踊りという芸能のもっとも基本的な特性であるだけに、こうした時季の揺れや多様化の進行は、盆踊り文化の継承の上でけっこう根が深い問題といえます。

たのしい夏祭りの盆踊り
<藤沢市辻堂 01.08.04>

◆なぜ「お盆」に踊るのか

お盆と盆踊りの時季についてのこのような整理を踏まえて、「なぜ盆踊りはお盆に踊るのか」という理由をあらためて考えてみましょう。

日本人にとって、夏は異界・他界との交流が盛んになる季節と考えられてきました※1。夏のピークであるとともに、秋への季節の変わり目である「お盆」は、さまざまな霊的存在=「精霊」(しょうりょう)が去来する時季であったのです。また、正月と七月を一年の前半と後半の節目とし、それぞれ先祖の霊が訪れる魂祭り(たままつり)の時季とする考え方も、古くからありました。

盆に訪れるとされる「精霊」の種類としては、①イエやムラの先祖の霊※2、 ②新盆の霊(新精霊)※3 、③無縁仏や餓鬼などの不成仏霊、の3つに分けて考えるのが一般的です。そして盆踊りは、これらの精霊の供養や鎮送とかかわる芸能と考えられるのです。

それぞれの精霊のタイプとの関係でいえば、①「お盆にはなつかしい祖先や身内の霊が戻って来るので、これを歓待するために踊る」②「まだ不安定な新盆の霊はしっかりと踊りで鎮魂する」③「望ましくない悪霊などは踊りで追い払う」、といった考え方になります。実際に踊り子に意識されているかどうかは別として、各地の盆踊りにはこうした考え方が単独で、あるいは重層して見受けられるようです。

こうした宗教民俗的な理由が、お盆に盆踊りを踊る文化の底流にあるものと考えられます。

※2 民俗学者柳田国男が 特に注目した。ただし、祖霊崇拝が庶民階級の「イエ」のレベルで広まるのは江戸時代以降と考えられます。

※3 さまざまな盆行事の中でもっとも重視されている対象は、この新精霊です。

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