八日市場盆踊り(千葉県匝瑳市・8/14)

首都圏に残る数少ない本格伝承系盆踊りのひとつ、「八日市場盆踊り」(千葉県)。
いまも複数のコミュニティで伝承され、例年8月18日には八日市場駅前で定例発表会も催されます。
地元のご関係者の紹介を得て、ひとつの伝承地域を訪問させていただきました。

◼️三種の盆踊り口説き
八日市場の盆踊りの伝承曲は「権左の西国」「庄八」「東上総」の三曲の盆踊り口説き。
これを、おなじ一種類の踊りで踊ります。

「東の小唄、西の口説き」と言われますが、長編叙事詩である口説き形式の盆踊りうたはおもに西日本に多く分布し、東日本ではさほどポピュラーではありません。江戸時代中期以降、八日市場のまちが栄えたいずれかの時期に、いずれかのルートでこの西国系の盆踊りがもたらされたものと考えられています。

◼️わがまちの盆踊り
まさに「地域の集会所」。
そんな印象の、こじんまりとした、地域の方々のためだけの盆踊り会場です。

いわゆる踊り櫓はありません。
かわりに設けられた四角い席を、お囃子連を中心とする地域のみなさんが囲みます。

お囃子の席が宴の場でもある

盆踊りの開始をのんびり待ちつつ、みんなで楽しむ夏の宵の宴。
こんな光景がかつてはどこでも見られたはず‥

◼️ぶ厚いお囃子のサウンド!
お囃子に誘われて、踊り子が三々五々と姿を見せはじめました。人数は少ないものの、味わいのある古風で優美な踊りです。

驚いたのは、、お囃子のパフォーマンス。

三味線はありませんが、笛が10本、鼓が10個、鉦・拍子木。
そして大小太鼓による見事なリズムキープ。
ぶ厚いサウンドが踊りをささえ、盛り上げます。

「盆踊りのために特に練習はしません。子どもも大人も耳で覚えて演奏するだけ。」

普通はそう簡単にいかないはずなんですが‥、
ここ千葉は、なんといってもお囃子県。
有名な佐原囃子をはじめ、全国に知られた祭り囃子が周りに数多く存在します。

ふだんから磨かれたお囃子の実力が、盆踊りにもいかんなく発揮され、
盆踊りの伝承をもささえている‥
それはとっても羨ましいことなのだと思います。

◼️西国盆踊りの系譜
「複数の口説き唄を、一つの踊りで踊る。」

奇しくも同じ伝承パターンが、やはり西国に起源をもつ東京・佃島の盆踊りにも見られます。

八日市場盆踊りの代表曲「権左が西国」に歌われる西国とは、西国巡礼のこと。巡礼に出かけた権左の悲劇と鎮魂の物語です。

権左という人物が八日市場に実在したかどうかは証明されていませんが、取材の翌朝歩いた八日市場の町中では、確かに多くの西国巡礼供養塔を見かけました。同種の供養塔は千葉県の各地に残存しています。

街中の西国供養塔

伝承の歌詞、お囃子、数多くの寺社と石塔、旧街道筋の古建築‥

八日市場に残る豊かな文化資源が、文献史料の語らぬ盆踊りの歴史を語りかけてくれます。

◼️外部リンク

「八日市場の盆踊り」(千葉県教育委員会)
「八日市場の盆踊り定例発表会」(匝瑳市)
「盆踊り歌」(匝瑳市広報「匝瑳探訪」18;平成18年8月)

◼️参考資料

「八日市場盆踊り  現代的意義とその歴史」(八日市場民謡保存会;昭和52年)
※2018年現在、八日市場盆踊りの基礎資料です。八日市場の市立図書館で閲覧可能。

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