《寄稿論文》
「郡上おどり」郡上八幡の交通儀礼

桜美林大学准教授 山口有次

毎年たくさんのファンが訪れる郡上踊り。まちにとって悩みのタネのが、この時期増える渋滞と「路上駐車」の問題です。
桜美林大学の山口先生は、「交通儀礼」という魅力的な切り口で、郡上八幡での交通社会実験結果を分析し、紹介して下さいました。

盆踊りファンのみなさん、「踊り」と「まち」と「クルマ」の関係について、いっしょに考えてみませんか?

郡上八幡への巡礼道

徹夜おどりの「郡上おどり」で全国に知られる郡上八幡、現在の郡上市八幡町は、岐阜県のほぼ中央の山間地に位置し、飛騨高山、白川郷、下呂温泉とも比較的近い交通の要衝にあります。車なら、東海北陸自動車道を使って、名古屋市から約2時間、岐阜市から約1時間で到着します。高速道路ができて比較的容易に行き来できるようになりましたが、それまでは長良川沿いに走る曲がりくねった国道で1時間以上余計時に時間がかかりました。でも、不便であることにより、ようやくたどり着いた時、一種の達成感を味わうことができました。

電車の場合、単線の長良川鉄道を使い郡上八幡駅まで、名古屋市からは約3時間、岐阜市からは約2時間かかります。車より時間がかかって不便な電車の旅程は、車窓からみえる風景をゆっくり味わいながら、魅力的な「郡上おどり」の街を訪れる、巡礼道の儀礼のように思えます。

郡上八幡は歩いて楽しむ街

郡上八幡では、ジャンプコンテストが行われる吉田川が中央を流れる谷間の狭い平地に、住民の約半数が生活しています。昔懐かしい町並みが残っており、単に歴史文化が感じられるというだけでなく、生活のにおいがする伝統的建造物群として非常に高い価値があります。夏期には、この魅力的な市街地の各所が「郡上おどり」の会場になり、盆の徹夜おどりで最高潮を迎えます。

この市街地は、地元の人々が生活する場でもあり、多数の買物客が利用する商店街であり、さらに魅力的な観光地でもあるのです。城下町のなごりで、道路は狭くて複雑であるため、生活に不便な点もありますが、コンパクトに生活圏が凝縮されており、道が狭いことがかえってこの街の魅力を高めています。

しかし、多くの観光客は、郡上八幡の魅力を十分に味わうことなく足早に去っていきます。平均滞在時間は2時間ほどです。昼食をとって、少し散歩して、土産をみたら、あっという間です。郡上八幡は、街の隅々を歩いてまわり、路地をぬけ、水路わきのベンチでくつろぎ、川面にたたずみ、そして地元の人々とのふれあうなかに本当の魅力を発見します。

郡上八幡は歩いて楽しむまちであり、駐車場に車をとめて、まちの中を歩きまわってはじめてその魅力を肌で感じ、十分に味わうことができるのです。市街地を車でまわったり、中心部に車を乗りつけ、その周辺だけをまわっても、その魅力は半減します。市街地をくまなく歩いてまわれば、だれもが郡上八幡ファンになることでしょう。

郡上八幡は歩いて楽しむ街

 

郡上八幡では、ジャンプコンテストが行われる吉田川が中央を流れる谷間の狭い平地に、住民の約半数が生活しています。昔懐かしい町並みが残っており、単に歴史文化が感じられるというだけでなく、生活のにおいがする伝統的建造物群として非常に高い価値があります。夏期には、この魅力的な市街地の各所が「郡上おどり」の会場になり、盆の徹夜おどりで最高潮を迎えます。

この市街地は、地元の人々が生活する場でもあり、多数の買物客が利用する商店街であり、さらに魅力的な観光地でもあるのです。城下町のなごりで、道路は狭くて複雑であるため、生活に不便な点もありますが、コンパクトに生活圏が凝縮されており、道が狭いことがかえってこの街の魅力を高めています。

しかし、多くの観光客は、郡上八幡の魅力を十分に味わうことなく足早に去っていきます。平均滞在時間は2時間ほどです。昼食をとって、少し散歩して、土産をみたら、あっという間です。郡上八幡は、街の隅々を歩いてまわり、路地をぬけ、水路わきのベンチでくつろぎ、川面にたたずみ、そして地元の人々とのふれあうなかに本当の魅力を発見します。

郡上八幡は歩いて楽しむまちであり、駐車場に車をとめて、まちの中を歩きまわってはじめてその魅力を肌で感じ、十分に味わうことができるのです。市街地を車でまわったり、中心部に車を乗りつけ、その周辺だけをまわっても、その魅力は半減します。市街地をくまなく歩いてまわれば、だれもが郡上八幡ファンになることでしょう。

「郡上おどり」会場のある中心市街地の交通実験

 

だが、現実には、市街地に車が増え、多くの車、多くの人、そして自転車が入り交じり、交通混雑が慢性的な問題になってきました。道が狭くてスピードが出せないため、大きな事故は起こっていませんが、交通安全のために、そして、昔ながらの魅力的な街が車によって台なしにならないよう、何らかの対策を打ち出すことが必要になりました。

市街地の交通問題は、商店街振興や観光振興、福祉対策などとも関係しており、利害が相反するような交通対策は住民の反発をかう可能性があります。

そのため、住民自らが交通対策を考えてそれを試してみようと、2001年11月(11日間)、2002年7~8月(30日間)の2回、交通社会実験が行われました。2回目の本格実験では、1年で最も混雑する「郡上おどり」の時期をねらい、街ぐるみで交通対策が試行されました。

住民主導で組織された「交通円滑化検討委員会」のメンバーは、住民公募7名を含む、住民・団体・企業・行政の代表32名(自治会連合会、社会福祉協議会、老人クラブ、婦人会、身障協会、病院、小学校、中学校、高校、まちづくり協議会、交通安全協会、警察署、バス会社、商工会、観光協会、町役場、県、国土交通省等)と学識経験者の委員長、地元シンクタンクで構成されました。

歩いて楽しむ街での駐車場利用儀礼

 

交通実験では、地図や携帯電話・パソコンによる駐車場案内情報提供、商店街歩行者天国の実施、小型コミュニティバス運行、路上駐車抑制キャンペーンなどが行われました。

そのうち、観光客向けの駐車場案内情報提供は、最初、高速道路IC出口や市街地周辺の幹線道路沿い5カ所に駐車場案内所が設けられ、告知看板をみてとまった車のドライバーに、空いている駐車場までの道順を地図で案内しました。

観光客向けの看板
この結果、IC出口で一定の案内需要 (1日平均37件、平日21件、土日50件) を確認するとともに、その他の場所での案内需要はあまりみられませんでした。駐車場案内を利用した人は、駐車場まで迷わず容易に到達したと大半の人が答えており、駐車場さがしに迷い困った人は少なくなりました(図表1)。

2回目は、携帯電話で駐車場の位置と空き台数を閲覧できるホームページを作成し、「郡上おどり」の案内チラシや看板などでアドレスをPRして、観光客に広く利用を呼びかけました。1日平均アクセス数は平日61件、土日90件あり、徹夜おどりの期間は421件もありました。いつでもどこでも使える情報提供手段として、夜間も確実に利用されることがわかりました(図表2)。

駐車場利用者アンケートによると、八幡町の市街地を歩いて楽しい街にしていくことを96.5%が支持しており、市街地外縁部の駐車場に車をとめて歩くかバスを利用することも37.9%が「よく理解できる」、60.0%が「ある程度やむを得ない」と答え、概ね支持されています。
しからば、歩いて楽しむ街・郡上八幡を訪れる観光客には、積極的に市街地外縁部の駐車場を利用していただき、市街地を歩いて楽しんでいただきたいものです。「郡上おどり」の会場となる市街地中心部にどしどしと車で入っていき、駐車場を探して狭い市街地を走り回り、歩行者の安全を阻害するようなことはやめていただきたい。おどりファンにはそうした意識を持っていただき、十分に郡上八幡の魅力を味わっていただくことを期待します。

「郡上おどり」ファンの路上駐車抑制儀礼

 

市街地の交通混雑緩和と、子どもや高齢者が安心して歩けるまちづくり、多くの人が歩いている賑わいのある商店街づくりのためには、路上駐車を減らすことが不可欠です。ただし、パトロールを強化したり、強制的に路上駐車できないようにするのではなく、お店や住民の理解と協力により、自発的に路上駐車を減らしていきたいという考えにまとまりました。

そこで、最初に住民自らの路上駐車を減らすために、住民向けの路上駐車抑制キャンペーンが行われました。「誰もが安心して楽しく歩けるまちづくりのためのルール」が作成され、小学生が絵を描いたポスターが市街地各所に掲示され、アピールするパレードが行われました。

路上駐車抑制キャンペーンパレード

路上駐車抑制キャンペーンポスター

買物客や障害者、高齢者の方がお店の前に短時間駐停車することまで、無理矢理なくそうとするものではなく、やむを得ない場合を除き、できるだけ駐車場にとめてもらい、駐車するとしても極力交通に支障のでないようにするよう働きかけがありました。

<誰もが安心して楽しく歩けるまちづくりのためのルール>
子どもから高齢者まで、誰もが安全に町中を歩けるよう、お店や家の前の道路に車を駐車しないようにしましょう。
お店や家の前の道路に商品やプランターなどを置かないようにして、歩行者のための空間をとりましょう。
さらに空間に余裕があれば、歩いている人が休憩できるよう、イスやベンチを置いてください。

この結果、市街地全体の路上駐車台数が大きく減少するまでの効果はみられませんでしたが、ルールの原案を住民皆で作成した新町商店街では、平日、土日ともに路上駐車台数が大きく減少する効果がありました(図表3)。

1年で最も混雑する徹夜おどりの期間、観光客の路上駐車が最も目立ちます。勝手に家の前に駐車して踊りにいってしまい、車が出せない、なんてことも起こります。家のまわりに知らない車が駐車しているために緊急車両が通れないこともありえます。限られた期間だからと住民はあきらめているといいます。そこで、交通実験中の徹夜おどりの日、夜から深夜にかけて、おどり会場周辺の路上駐車台数を調べてみました。

その結果、警察が目を光らせ、定期的にパトロールしている時間帯は、例年に比べ目に見えて路上駐車台数が減りました(図表4)。例年なら対面2車線ある国道の片側をふさいでしまうほど長い路上駐車の列ができていましたが、そのような状況はまったくみられませんでした。しかし、パトロールが手薄になった深夜から次第に路上駐車台数が増えました。

深夜から踊りにやってくる人々は、郡上おどりの熱心なファンといえます。中には地元の人々も含まれているでしょう。その熱心な郡上おどりファンは、路上駐車できる場所を知っており、そこに車をとめて踊りに行ってしまいます。わざわざ大規模な臨時駐車場が設けられ、無料シャトルバスが運行されているのに、少しでも踊り会場の近くにとめたい、駐車料金を払いたくない、ということで路上駐車の列ができます。

深夜だからさほど迷惑をかけていない、それほど危険でない場所にとめているのだからよいではないか、といったいいわけはできません。話し声は近所まで聞こえてうるさいし、これまで事故はないが、細い道での駐車は危険であることに疑いの余地はありません。何より、おどりを多くの人に楽しんでいただくために、地元が用意している駐車場のボランティアに失礼に思えます。駐車場のお金はシャトルバス運行や踊りの運営・保存に費やされます。ファン自ら「郡上おどり」の運営に打撃をあたえるといってもよいでしょう。

路上駐車の取り締まりをさらに強化すれば抑止できますが、地元として強制したくないといいます。むしろ、おどりファン自ら地元に迷惑をかけない、踊りの運営・保存に積極的に協力する意志を込めて、用意された駐車場とシャトルバスを利用することをひとつの儀礼だと思い、踊りに参加していただきたく思います。

市街地めぐりを促すコミュニティバス利用のPR

 

市街地中心部を大型の路線バスや観光バスが通ると、狭い道を対向車がすれ違うことができず、後に続く車が渋滞の列になります。狭い道にはそれにあった小型のバスが通ることが望まれます。そのため、今までの大型路線バスは市街地外周をまわり、市街地の「城下町プラザ」にのみ外周部からアプローチできるようにし、市街地の内部は小型コミュニティバスを運行する実験も行われました。

高齢者や障害者でも乗り降りしやすいよう小型ノンステップバスが利用され、病院や公共施設、バスターミナル、郡上八幡駅などを細かくまわる2ルートで、バス停は100~200m間隔、1回100円に設定されました。

この結果、「郡上おどり」の期間30日で利用者は1日平均98人、平日87人、土日95人、徹夜おどりのお盆147人でした。住民には、病院、医院、公共施設、商店街などをまわる足として、非常に好評でした。観光客の利用も多く、特に郡上八幡駅での乗降が多くみられました。ノンステップバスの乗り心地も評価が高く、本格実施を期待する声が非常に多くありました。

2003年8月8日からは「まめバス」と名付けられ、本格導入されています。実験結果を踏まえ、市街地を8の字ルートで双方向に1時間1本、1回100円で運行されています。観光客にとっては、市街地外縁部の駐車場と中心部を結び、比較的離れた観光スポットどうしを行き来でき、疲れてきたときにも便利です。

郡上おどりファンにもぜひ「まめバス」を利用していただきたいのですが、郡上八幡観光協会、郡上八幡産業振興公社などのホームページには「まめバス」のことは紹介されていません。郡上八幡駅や城下町プラザから乗り継げば便利なので、ぜひ積極的にPRしていただきたい。おどりファンをはじめとする観光客向けに、市街地をめぐって楽しむための足として、「まめバス」をPRし利用を促すことは、行政や公共機関にとっての交通儀礼といえます。

商店街によるもてなしの交通儀礼

 

市街地中心部、「郡上おどり」会場にもなる新町商店街では、歩行者天国の実験も行われました。週末の日曜日、11時~16時、特別なイベントを行わないで車両通行を禁止するだけの歩行者天国を実施し、コミュニティバスや駐車場を利用してやってきた人には、商店ごとに特典が用意されました。宣伝不足でこの特典を利用する人は少数でしたが、この期間の商店街の歩行者数は、普段の休日の2倍以上に増えました。

親子や高齢者がゆったりと歩くことができ、地元の子どもたちも歩きや自転車で集まってきました。これは1年で最も観光客が多い、徹夜おどりの日の午後よりも多く、その結果商店街のお店の客数も売上高も大きく増加しました。観光客の滞在時間も延びており、観光施設の利用者も増加しました。また、歩行者天国の効果は、隣接する商店街にも顕著に波及することがわかりました。

現在、新町商店街では春と秋の年2回、自主的に歩行者天国が開催されていますが、欲をいえば毎週末、休日ごとに、市街地のどこかの商店街で歩行者天国が行われている、というような本格的な広がりを期待しています。また、新町や本町の商店街などでは、観光客や買物客が疲れた時、店頭でゆっくり休めるよう、ベンチやイスを積極的に置くようになりました。

歩いてまわる人に優しい歩行空間づくりは、地元住民によるもてなしの交通儀礼となります。

水辺で踊る「郡上おどり」の住民提案

 

ところで、郡上八幡は、長良川を始め、吉田川、小駄良川など多数の清流、そして生活と密着した水路が流れ、「水の町」として親しまれています。しかし、これまでは、道幅を少しでも広く確保するために、道路脇を流れていた側溝や用水路にふたをする傾向にありました。そこで、古絵図にみられるように、目抜き通りにある新町商店街の道路の真ん中にかつて流れていた水路を復活させたいという声が住民の多くからあがっています。

中央を水路、左右を歩行者専用道路にして車を追放する、車は時間を決めて全面通行止めとする、片側の車道を一方通行としてもう片側を駐停車場帯や歩道とする、それを時期や区間により車道と歩道を入れ替えるなど、交通に支障のないよう色々なアイデアが住民から提案されています。

吉田川沿いの遊歩道は、現在国道156号付近から中心市街地までつながっており、清流を眺めながらの散歩道、夏期の踊りの時期には小さなあかりの灯された夕涼みの道として、非常に印象のよい道です。この吉田川沿いの遊歩道を市街地の端まで延長し、現在商店の裏側になっている川べりに顔を向けた商店が軒を連ねるよう整備してはどうかという提案もあります。

もし実現すれば、水の流れる音を聞きながら水辺で踊る風情のある「郡上おどり」を楽しむことができるかもしれません。

盆踊りの交通儀礼

「郡上おどり」はもともと民衆の信仰心から生まれ、コミュニティの行事として大切にはぐくまれてきたものです。そのため、真に価値を認めたものだけがたどり着くことができる境地として、踊りを楽しむための儀礼があってしかるべきです。

魅力的なこの街にとって、交通の不便さは一種の儀礼といってよいと思います。家から出て踊りの会場に到着し、踊って会場を後にするところまで、踊りの儀礼は一連をなしています。踊りの会場となる市街地中心部にまでに車で入るのは礼儀に反します。市街地外縁部の駐車場に車をとめて、市街地を歩いてまわる、またはバスでまわることはひとつの儀礼として心得、実行していただきたい。路上駐車は楽しませていただく街に失礼にあたるため、絶対にやめていただきたい。

多くの人が集まるまつり・盆踊りを愛する人々には、訪れる街に対して畏敬の念を持ち、街の魅力を大切に扱いながら、十分に味わい楽しむために、参加者に求められるその街ごとの交通儀礼があるように思います。

(終)

執筆者略歴

山口 有次(やまぐち ゆうじ)

岐阜県関市出身。八幡町交通円滑化検討委員会の事務局として交通実験に参加。社会経済生産性本部の「レジャー白書」執筆にも携わる。専門は、レジャー施設計画、レジャー情報システム、観光レジャー地域計画。共著・論文等多数。現在、桜美林大学准教授

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