お盆の始まりのことを「盆入り」といいます。7月1日、7月7日などを盆入りとする地域が全国的に多いようです。1ヶ月にもおよぶお盆のシーズンのはじまりです。

お盆にはたくさんの行事があります。日本人がいかにお盆を大切にしてきたのかがわかります。

そして行事の内容も地域ごとに実に多様で、日本人の豊かな民俗的想像力がよく表れています。盆踊りをこうしたお盆の行事の中に位置づけてみると、いろいろなことがわかってきます。

*以下の行事の日取りについては、特に必要のある場合以外は旧暦で紹介しました。
*仏教寺院等における盂蘭盆会の儀礼・行事は研究編を参照して下さい。

釜蓋朔日(かまぶたついたち)

7月1日を「釜蓋朔日」とよび、この日からお盆が始まる(=「盆入り」)とする地方が全国的に見られます。
「お盆には地獄の釜のふたが開く」という話を聞いたことのある人も多いと思います。「釜蓋朔日」の名前は、この日が地獄の釜のふたが開く日であるという伝承に由来します。地獄というのは「あの世」という意味に考えればいいでしょう。精霊たちがあの世から戻ってくる季節の始まりを、わかりやすく伝えています。

「カマノフタの朔日」「釜ノフタノ祝イ」「カマの口アケ」

という地方もあります。

七日盆(なぬかぼん)

7月7日を盆入りとする地方もたくさんあります。
東北地方・中国地方ではナヌカビ、近畿地方などではナヌカボンと呼ばれることが多いようです。
七日盆の行事としては、墓掃除、盆棚つくり、仏具磨き、路草刈りなどが行われます。

七夕(たなばた)と盆行事

7月7日は、ご存じのとおり「七夕」(たなばた)の日でもあります。
現在では「七夕」は7月7日、「お盆」は8月15日ころで、ぜんぜん別の行事と思っている人が多いでしょう。しかし旧暦では七夕からお盆までは約1週間で、むしろ七夕は「お盆のはじまり」という感覚が強かったようです。

現代の七夕まつり(神奈川県平塚市)

◆「水」にまるわる行事
特に東北地方から関東地方には、七夕に水に関する行事が多く残っています。

・「7回水を浴び、7回親を拝む」
・「7回水を浴び、7回赤飯を食べる」
・女性は洗髪する 全国
・家族全員で行水する
・牛馬を洗う 全国
・食器を洗う
・井戸さらい 川・池さらい

こうした行事から、七夕はお盆という「祭り」シーズンに先立つ「禊ぎ」(みそぎ)の行事と解釈するのが有力です。

◆「ねぶた」も七夕行事
東北の夏祭りとして有名な「ねぶた」(青森)、「ねぷた」(弘前)ですが、これらももともと七夕の行事です。東北地方各地では「ねむりながし」、栃木県足利地方では「ねぶとながし」ともいいます。夏場に人々を襲う睡魔を、音の似かよった「ねむの木」に託し、川に流して送り出すという行事で、これもやはり「水」にかかわる行事の一種といえるでしょう。

◆子どもたちの行事
七夕の一つの特徴に、「子どもたちの行事」という側面があります。
七夕には「子どもは7回水を浴びる」というように、特に子どもの関わりを重視する行事がいろいろと伝えられています。
子どもたちの行事として面白いのが、神奈川県などに広くみられた「こなしっこ」「こなしっくら」です。
これは、ふだんは仲の良い隣あった村の子どもたちが、お盆の7日の夕方に川をはさんで向かい合って列をつくり、悪口で相手方をののしりあうというものです。主役は成年前の少女たちで、けっこうどぎつい悪口も言い合いますが、お盆過ぎにはまたけろりと元の仲良しに戻るという、関東地方の女の子らしいドライな行事でした。残念ながらいまはみられませんが、現代の女の子による「こなしっくら」を一度見てみたいものです。
お盆と盆踊り ◆「小町踊り」「七夕踊り」

小町踊り
七夕から盆にかけて娘たちが踊った風流踊。一名「七夕踊」ともいわれ、正保から寛文
にかけて京都では特にはなやかに行われた。美しい染模様の衣装に鉢巻・襷(たすき)・挿頭をつけた七、八歳から十七、八歳の娘たちが房つきの団扇太鼓で拍子をとり、歌をうたいながら町を練り歩き、家々を訪問しては輪になって踊った。その踊り歌は『盆々ぼんは今日あすばかり、あしたは嫁のしおれ草』などである。享保ころにはすでにおとろえ、現在、長野県松本市の盆行事である「ぼんぼん」などに当時のなごりをうかがうことができる。 (「国史大辞典」)
小町踊りは、江戸時代の初めに少女達によって七夕に踊られたものです。一説では七夕の伝説にあやかって良縁を求める娘たちによって踊られたともいわれています。

盆踊りの視点からみると、小町踊りには興味深いいくつかの性格が見られます。
①「七夕」という時期
旧暦の七夕は、お盆のはじまりの時期にあたります。このため「小町踊り(七夕踊り)」 には、15日前後の本来の盆踊りの「前哨戦」的な性格もあったのではないでしょうか。
②少女だけの踊り
これはもちろん「子どもの行事」という七夕の性格と関係するのですが、それだけでは ありません。
五来重氏は、中世の踊り念仏の担い手のひとつ「白拍子」(遊女)と小町踊りの関係に注目しています(五来重「踊り念仏」平凡社)。
現在の盆踊り歌にも残る「数え歌」 は本来白拍子=遊女の文化であること、盆踊りの発生とも関係する近世初期の「歌舞伎踊り」は、白拍子的性格をもつ勧進巫女の念仏踊りが主役をつとめたことなどが指摘されており、盆踊りなどの民俗芸能に白拍子の文化が取り入れられる過程を示しています。

小町踊りとも関連する少女風流「ちゃっきらこ」(神奈川県三浦市)

③踊りの形式
「町の練り歩き」「家を訪問」「輪踊り」といった踊りの形式は、広く見られる古いタイプの盆踊りに共通するものです。

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