ハワイのボン・ダンスの大きな特徴が、その開催期間の長さです。

ハワイでは、6月から9月まで、週末になるとどこかでボン・ダンスが開催されています。こうしたやり方は古い歴史があり、ハワイの盆踊り文化の特徴であるとともに、ボン・ダンスがハワイの人々に愛されてきた証拠でもあります。

 

まずは実際のボン・ダンス日程表(2008年)を見て、その規模と構造を実感してみましょう。

図表1 ハワイのボン・ダンス開催日程(2008)

(図表)The Hawaii Heraldホームページ掲載データをもとに作成。

こうして見てみると、ハワイの盆踊りのスケールの大きさに、改めて驚かされます。

毎年夏場が近づくと、日系人読者の多いハワイ・ヘラルド誌がハワイ全島のボン・ダンスの開催スケジュールを掲載し、さまざまなところで引用されています。この表もそのデータをもとに作成したものです。年によって掲載数や対象が若干変動するようですが、近年は約80ヶ所ほどが掲載されており、2008年は、計82ヶ所でした。

この表から、すぐに以下のような特徴を読み取ることができます。

◆ボン・ダンスは、「ハワイ6島」のすべての島で踊られている。
◆開催場所はほとんどが「仏教系寺院」。イベント系の開催もいくつか見られる。
◆1つの寺院で、1シーズンに1回開催される。
◆近隣の寺院の開催が重複しないよう、日程調整は各島ごとに行われている。
◆開催期間は7・8月を中心に、6月から9月に及んでいる。
◆曜日は、週末の金曜・土曜。連日開催も少なくない。
◆盆踊り開催に伴い、太鼓のパフォーマンスや灯籠流しなどの行事が行われる。

寺院間で開催日程調整
こうした開催日程となっている大きな理由は、ボン・ダンスの開催場所となる仏教寺院側のニーズが大きいようです。

ボン・ダンスにはたくさんの人が集まり、お布施や屋台の売り上げなどの収益も伴うため、寺院にとって魅力的な行事です。しかし信徒や檀家をはじめ周辺地域の人口は限られているため、同じ地域で同時開催となった場合、どちらも参加者を確保できなくなることから、おのずと日程をズラそうという発想が生まれます。

さらに大きな要因となっているのが、伝承系のライブ・ミュージックを担当するグループの存在です。
ハワイのボン・ダンスを盛り上げる重要な要素となっているのが、「福島ボンダンスクラブ」やエイサー系グループなど、アマチュア音楽家グループによる伝承系踊り曲の”ライブ”上演です。これらのライブでは、曲いわゆるCDやテープによる録音再生音頭に比べて参加者のノリがまったく違い驚くほどえす。ところが、こうしたグループの数やメンバーは限られているため、何ヶ所か”ハシゴ”をしても追いつかないという状況です。

このため、こうしたライブのグループに来てもらうためにも、あらかじめ各寺院とグループが相談し、シーズン中のスケジュールを調整するやり方が定着しました。結果的に、現在ではボン・ダンスの開催期間は本来の7・8月を越えて足かけ4か月にも及ぶことになったのです。

ハワイのボン・ダンスに詳しい中原ゆかり氏の研究によると、すでに1930年代には「近隣の寺どうしや同じ宗派内の寺で日程をずらしてスケジュールを組む」(*1)ようになっており、ボン・ダンスのスケジュール調整といったハワイの盆踊り文化がとても古い歴史を持っていることがわかります。

さらに開催の特徴を見てみましょう。

図表2 ボン・ダンスの島別開催比率(2008)

主要6島間の開催数を比較すると、オアフ島の30ヶ所(37%)と、ハワイ島の27ヶ所(33%)が多く、両者で7割を占めています。
現在のハワイの人口はホノルルのあるオアフ島(約90万人)に集中しており、二位のハワイ島が約17万人ですから、人口分布に比べてボン・ダンスの分布は大きく偏っていることがわかります。

ボン・ダンスの分布には、日本からの移民入植の地理的・歴史的経緯が関係していることがわかります。

ハワイ島はボン・ダンスのメッカ
(08.08.09 ハワイ島ヒロ)

図表3 月別開催比率

図表4 曜日別開催比率

[月別分布] やはり”盆月”の7・8月が中心ですが、特に7月開催が約半分と多くなっており、8月中心の現在の日本の盆踊り(お盆)との違いが見られます。ちなみに、日本においても明治時代以降旧暦盆から新暦盆への切り替えが進んでいます。

[開催曜日] 以前は土・日であった時代もあったようですが、現在では金・土の開催となっています。仕事が休みとなる週末に開催を集中させたのも、ボン・ダンスの参加者の確保と関係しますが、同時に、お盆の日程が欧米の曜日文化と重なり合っていったことも示しています。

さらに、このように調整されたボン・ダンスの開催日程にあわせて、各寺院では新盆供養の行事などが行われています。ハワイのお盆の日程は、ボン・ダンスの開催力学の影響によって、もともと日本のお盆・盆踊りの日程から大きくずれる結果になり、ハワイ独自の盆踊り文化が形成されたのです。

(参考)日本の盆踊りの開催期間との比較

現在の日本列島では、盆踊りの開催日程は8月への集中度が高いようです。ただ、近隣地域での日程調整や週末・休日への日程のズラシなど、盆踊りへの参加人数確保についてはやはり同じような力学が働いているようです。

日程の長さという点では、単独で7月~9月の2か月近く盆踊りを開催している岐阜県の「郡上踊り」の例がよく知られています。すでに江戸時代末期にはこうした盆踊り日程拡大の萌芽が見られましたが、現在のように長期間に拡大したのは戦後になってからのようです。

一方、伝承系の盆踊りでも、複数の盆踊り間の日程調整は行われていました。
たとえば代表的な例として、お堂の中で踊ることで名高い岡山県の「大宮踊り」があります。蒜山盆地では、かつては旧暦七月十四日から十九日まで、八束・中和・川上・二川各村の寺・社のお堂で順次開催されてきました。特に有名な福田神社(通称:大宮さん)の踊りは有名で、開催日には近隣数里の人々が集まってきたといいます。他にも、秋田県の毛馬内盆踊りなどでもこうした開催日程期間の設定が知られており、かつてわが国でも踊り日程の調整はけっこう柔軟に行われていたことがわかります。

盆踊り開催期間の長さと開催日調整の柔軟さはたしかにハワイのボン・ダンスの特徴ですが、もともと盆踊りという文化自体が柔軟性を持っていたという視点からも考えることができるのではないでしょうか。

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*1  参考文献1.参照。

≪参考文献≫
1.中原ゆかり「ハワイ日系人のボン・ダンスの変遷」(水野信男編著「民族音楽学の課題と方法」世界思想社、2002年所収)
2.Van Zile,Judy. The Japanese Bon Dance in Hawaii. Honolulu:Press Pacifica 1982
3.「岡山県史第16巻民俗Ⅱ」岡山県史編纂委員会、1983