私たちが、ハワイの盆踊りを訪ねるきっかけとなった本「Japanese Bon Dance
in Hawaii」の著者である、ジュディ ヴァン ザイル先生とお話をさせていただく光栄にめぐまれました。
エイサーと盆踊りの区分、巫女舞と盆踊りを例にとった宗教とダンス、歌舞伎や能の話など、日本の踊りに関する見識と、クリアな解説に心から感動しました。簡単ですが、インタビューの内容を記載させていただきます。

 

◆民族学・文化人類学と民俗学は「扱う対象の範囲」が違う

― 先生はダンスエスノロジーを専門とされていますが、エスノロジー(民族学)とフォークロア(民俗学)とアンソロポロジー(文化人類学)の違いを教えていただけますか?

フォークロアは概念がやや狭いです。たとえば、エスノロジーは歌舞伎や能も扱いますし、モダンのジャズダンスでも対象になりますが、フォークロアはそこを対象としません。そう意味でエスノロジーは巾が広いところが特徴です。アンソロポロジーは近い関係にある学問で重なる部分があります。
日本だとササモリ氏(笹森建英 民族音楽学)がいますね。

◆ダンスの形態変化から文化背景を探る

― ダンスエスノロジーはどのようなことを研究されるのですか?

動作の意味合いから入り、ダンスの形態の変化を観察し、文化的背景などを研究します。例えば文化大革命時の京劇では、ロシアバレーを輸入、ブレンドしました。プロパガンダ的な要素が大きかったのですが、それによって、踊りの形が、例えば手を上げる動作などが変わっています。そういった踊りの形の変化をとらえ、その背景に何があるのかを探るのがダンスエスノロジーの一つの切り口です。
エスノロジーは、音楽、ダンス、歴史と色々切り口があります。いずれも誰が、何故という視点を組み入れて、整理をしていきます。あなたがたのベースは何ですか?

―われわれは歴史をベースにしています

そうですか。ダンスエスノロジーでは、文化と踊りのリレーションをどう見るかがとても大切です。

―もともと、どういうきっかけでダンスエスノロジーを専攻研究とされたのですか?

元々は踊りの分析だけを行っていました。ところが、学生から、「どうしてそういう動きになったのですか?」という質問をうけ、最初は答えが出せませんでした。そんなところから、ダンスが生まれた背景をさぐるという意味でのダンスエスノロジーを研究しはじめました。

―先生が一番力を入れている分野は何ですか?

コリアンダンスは30年以上研究をしています。コリアンダンスはコミュニティダンスではなく、テクニカルな動きをもち、踊りも非常に沢山あります。非常に興味深いものです。著書がもってきました。是非、読んでみてください。「Perspectives on Korean Dance 」

―日本の踊りとコリアンダンスに共通点などはありますか?

それは韓国の方にもよく聞かれるのですが、直接的な共通点はあまりないと思います。新舞踊については、韓国でもシンムヨウといって、ある程度の影響がみられますが。

◆ボン・ダンスについて

―先生にとって盆ダンス研究はどんな意味がありましたか?

盆踊り研究で、ダンスエスノロジーのパースペクティブを確立できたと考えています。歌舞伎などと比べて踊りの12~13のパターンの踊りが繰り返されるということから、分析がしやすかったのです。盆ダンスはその後も見続けていますが、本格的な研究はそれ以降行っていません。

―盆ダンスの特徴は何だと思われますか?

まず踊りがシングルユニット(上半身と下半身で分かれた動きをする踊りでない)ですね。これは、浴衣という衣装が制約になっているからだと思います。それから、踊りが厳密でないこと。皆が思い思いに踊っていて、非常にゆるい感じだと思います。実際に見にいくと皆バラバラ。面白いですよね。

―著書にもありましたが、そういった中、ゆるやかさと入りやすさが盆ダンスの特徴だとわれわれも感じています。行事との関係などはどう考えられますか?

仏教との関係ですね。例えば、巫女舞などは、宗教儀式の中に踊りが組み込まれていますよね。盆踊りは、儀式と関係はしているけれど、儀式の一つではないと考えます。例えば同じ寺院でやったとしても、盆行事が終わった後に行われるなど、区分がみられると思います。

―なるほど、日本でも、寺の盆とムラの盆というのがあり、その辺りの区分がみられます。確かにポイントなのでしょうね。日本では、音頭とりがいなくなって踊りが途絶えることがあるのですが、ハワイではそういう問題はないのでしょうか?

ケースバイケースですね。盆ダンスクラブなどが維持されていて、それぞれ練習を続けていますから。

―ハワイには盆行事などはありますか?

お墓に飾りをするとか、やや商業的ですがノースショアの灯篭流しなどがありますね

―ハワイの盆ダンスの特徴は何でしょう?

寺ごとに違うフレイバーがあります。盆ダンスグループが順々にお寺をまわるので、6月~9月と時期が広くなったと考えられます。

―日本にいらしたことはありますか?

以前、来日して阿波踊りをみたことがあります。そういえば、先ほど、盆踊りの中でのカチャーシーという話をなさっていましたが、沖縄と日本本土では文化が違いますよね。エイサーの方では獅子舞などが入ったり、また別の新しい舞があったりします

―先生の研究室の学生さんは、どんな方がいらっしゃるのですか

エスノロジーというメソッドはありますが、対象は色々です。その後の進路でも、ダンサーになる人もいれば、学者になる人もいますよ。

―例えば、ブレイクダンス等の現代ダンスもご興味あるのでしょうか?

ブレイクダンス、面白いですね、素晴らしく才能がある人たちがいます。私はダンスに関しては心が広いんですよ。あなたがたの湘南盆踊りワークショップは何名いらっしゃるのですか?

―基本は3人です。他に色々な方とコラボレーションさせていただいていますが・・。あくまでアマチュアの団体です。

そうですか。アマチュアとはいいながら、とても面白いことをやっていますね。

―ありがとうございます。本日は、色々お話させていただき大変感動しました。


2008年8月8日アラモアナ・ビーチパーク付近にて

Judy Van Zile (ジュディ ヴァン ザイル)教授

ハワイ大学教授。専門は、ダンスエスノロジー。 アジア、アフリカ各地の踊りを研究。
フラ、ボンダンス、コリアンダンスの踊り譜記録を作成。
特にコリアンダンスについての研究で知られ、「Perspectives on Korean Dance 」はCORD (Congress on Research in Dance)より、2003年の傑出した出版物として表彰された。

 

「Japanese Bon Dance in Hawaii」

ザイル教授により、1982年に出版される。
内容は、盆踊りの歴史、ハワイ日系移民の歴史、ハワイにおける盆踊りの変遷について研究がされている。特筆すべき点は、近・現代の変遷を、当事者のインタビューと記事により根拠をベースに整理するとともに、音楽を譜面化、踊りをラバン式身体運動記譜法、および絵図で記録していることである。非常に明晰で、かつ、包括的な研究でありながら、それほど厚い本ではないので、興味のある方は是非、一読を。インターネット調べれば、日本でも古書が手に入る。